2008年2月10日日曜日

L change the World ~スピンオフの明らかな失敗作~

『L change the World』 ~スピンオフの明らかな失敗作~ 
(08年2月)
総合 18点
(ストーリー:内容;4点/30点
      一貫性;6点/20点
       展開;4点/20点
主張:2点/10点
描写:0点/10点
演技:2点/10点)
 前作の公開終了からすぐに企画されていたスピンオフなだけにファンの期待はすこぶる高い1作だ。私自身もデスノートファンであり、公開が待ち遠 しく、すぐに劇場へ駆けつけた。前作『DEATH NOTE』の評論では、(詳しくは前作の評論を見てもらいたいのだが)漫画とは一違うオリジナルのデスノートの世界が描かれており、ファンとしては充分満 足できる作品であった。頭の悪いライトvs人情味深いLの戦いではあっても“それはそれ”の良くできたストーリー内容であったからだ。その人情味深いLが 最期の23日間に何をしたかったのか?この1つだけでも、もうかなり胸が膨らむ。
 ところがしかし、この作品は大失敗としかいいようのない残念な結果だ。原作、前作を全く活かしきれていないはおろか、オリジナルとしても何と も陳腐な脚本、Lのキャラクター、デスノートの世界観を全く表現しきれていない描写、おまけに新展開や新事実も、何も産まれていないといっても過言でな い。完全なるスピンオフの失敗作であり、久しぶりに映画館を途中で出ようかと思ったくらいだ。製作者は、果たしてデスノートの何を描きたかったのだろう か?デスノートをしっかり読んだのだろうか?前作をしっかりと見たのだろうか?
まずはストーリー内容のできがあまりにひどい。デスノートとは大人が頭を捻らせても出てこないような発想が醍醐味であり、天才vs天才の化かし 合いがこれまでにない大ストーリーを産み出している。描かれているテーマも、犯罪者裁きは悪か正義かというスケールの大きなものである。ところが本作は何 だろう?小学生向けヒーローもののような陳腐なストーリーと展開。頭脳による化かし合いもなければ逆転劇も何もない。描かれている悪人の人間的小ささもさ ることながら最終決着の舞台も客員数十名の機内となんとスケールの小さいことか。L最期の23日間は、Lじゃなきゃ解決できない難題でなければならないは ず。百歩譲ってそこまで頭の使ったストーリーを製作できないにしても、映画版の人情味溢れたLの人柄を表現することは最低ラインやらねばならないのではな いか。
また、原作や前作にはないLの描写がさらに作品をダメにしている。製作者の意図としては、走ったり、跳んだり、自転車に乗ったり、猫背を治して みたり、お茶目だったりと原作や前作では見せる事ができなかったLを表現したかったのであろうが。私は原作の全てを描いたり、原作通り描く事が全てではな いとも思う。現に前作の『DEATH NOTE』は、原作とは一味違う醍醐味があり面白かった。しかし、このスピンオフ作品はその限度を越えて、デスノートの世界をぶち壊しにしているからひど いのである。その頭脳明晰ぶりを発揮していない馬鹿なLを代表に、新しく登場するワイミーズハウスの天才、Kの扱いもひどい。天才のはずの彼女の、その天 才ぶりはなんだろうか?史上最悪の兵器であるはずの細菌を作ったのも別の人間。血清を作ったのもまた別の人間。暗号も解けない。難攻不落なはずの捜査本部 も甘甘のセキュリティだし、Lやワタリの存在は一般人に知られてはならないはずなのに、一研究員が知っている。小学生が見るならまだしも、これを楽しみに 劇場へ足を運ぶ大人も多数いるのだから、デスノートを馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。大場つぐみ先生はよくこれをスピンオフとして認めたなぁと想 う。
さらにはデスノートと関係がない所でも粗が目立つ。感染少女が街中をうろついているのに電車内では騒ぐだけだし、シートも殺菌してるだけだ し・・・。感染のスピードも都合のいいくらい不自然だし、人によって感染の仕方も違う。緻密なデスノートにはあってはならない粗が多すぎる。おまけに演技 もひどい。これだけ優秀な子役がたくさんいる時代なのだから、少女役の福田麻由子はもうちょっと頑張ってほしい。
と、いいきれない位ひどく、フォローのしようがない位残念なこの作品は、今後スピンオフを作る際の反面教師として大いに参考になるだろう。スピ ンオフの依頼がきたからにはしっかりとした仕事をしないと、こうなる。確かにこの監督はホラー映画監督としては優秀なのかもしれないが、デスノートのスピ ンオフという事をまるで分かっていない。スピンオフを請ける限りは、作品を愛し、しっかりとそれを表現してもらいたい。それができずに安っぽい映画を作る のであれば、その仕事を請けてはいけない。最後に、この作品のせいで名作の価値が下がるような事がない事を祈るばかりだ。

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