2007年3月4日日曜日

俺とアカペラ 第5章 ~苦戦~

初めての集いから2週間後、結成直後の俺の希望は、不安に変わっていた。

「このままじゃぁ、まずいな。」
チームで一番ハモリのセンスがある陽介が言った。

「間に合うかな・・・デモテープ?」

「やるしかない。とにかく集中してまずは個人がしっかりパートを覚えよう!」
リーダー種哉の一言で俺達は練習を再開し始めた。

俺達ソングスピットは、『ハモリ倶楽部出場』という目標に向けて本格的に練習を始めていた。
出場に向けての関門は2ステップ。まずは「デモテープ選考」、それが通れば全国8箇所で実施される「面接」である。しかし、選考回数とは逆にその通り門は非常に狭い。全国から約2000組の応募がなされ、そこから面接まで行ける組がその10分の1の200組。さらに面接を通過できるのはわずか56組(7組×8箇所)である。俺達が出場を狙う東海地区予選。わずか7組の枠に、結成して間もないアカペラグループが挑むのである。


まずはその第1ステップ、デモテープをテレビ局に送らねばならない。それを形にする為に今、課題曲『Say The Word』を練習をしてるのであった。
しかし・・・。俺の当初の思惑とは裏腹に、そう簡単に演奏が上手くいくものではなかった。
「ハモる」という事は、人と人との声の混ざりにより綺麗に聞こえるものである。その声の混ざりが、どうにも上手くいかなかったのだ。原因は、コーラスパートを担当している熊毛の、「オペラ声」であった。
「普通の人は、”地声”と、”裏声”があるけど、熊毛は、その上に”オペラ”が存在する。」
ハモリの達人陽介は、そう指摘した。
オペラのように高音域を大きな声量で出せるセンス。それは、オペラの時に使われる声質で、普通の人では簡単には出せないものなのだが・・・。
熊毛にあった長所が、ハモリに関しては裏目に出てしまっていた。
もう一つの問題点があった。それは、ウッズの「ベース」である。それは、ベースのパートが初心者には非常に難しいパートだからである。メインヴァーカル、コーラスとは全く違ったリズム、音を出す、「ベース。」そして難しいパートの上、コーラスの基本(”ベース”)となる音を出す大切なパート。自分の音を覚えるのがやっとで、皆と合わせるまでに時間がかかってしまったのだ。

逆に良かったのは、種哉のメインヴォーカル。男性が女性曲を原キーで歌えるその歌唱力は、何度聞いてもすごかった。そして、陽介のハモリセンス。小学生の時から培った彼の能力・音感はすごかった。高校の頃一緒にバンドをやっていた頃より、アカペラになるとさらにそれが際立って見えた。自慢する訳ではないけれど、俺のボイパも形になっている。

デモテープの〆切は、来週。このままでは・・・間に合わない・・・。

「とにかく、熊毛は裏声を出せるようになる事。ウッズは、もう少しちゃんと音を覚えてこよう!」
陽介は言った。


間に合わない・・・と言っても、何とか形にして、送らねばならない。
俺達は、不安を抱えたまま、デモテープの収録を迎えることとなってしまった。

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