2007年2月24日土曜日

俺とアカペラ 第4章 ~歌串~

『SongSpit』初めての集い。

そう。このSongSpitというグループ名は、この第1回の練習の時に種哉の提案で決まった。
名前の由来はメンバーの頭文字を繫げ、それを英語にしたというもの。つまり、ウッズの『ウ』、種哉の『タ』、陽介:本名野上陽介の『ノ』、熊毛の『ク』、そして俺の『シ』を繫げると『ウタノクシ』。=『歌串』。=『SongSpit』。という事らしい。
彼の練りに練った考えを認め、賛同した者半数、そうではなくてもソングスピットという響きが良いとして、結局この名前に即決した。
それと同時に、SongSpitの創始者である種哉がこのアカペラバンドのリーダーを務めるということも決まった。
名前を決めたという事もそうだが、創始者とは種哉が最初に
「『ハモリ倶楽部』出場を目指そう!」
と言い出して人を集め始めたという意味が大きい。
そしてSongSpitが初めて練習に取り掛かる曲、つまりは『ハモリ倶楽部』出場の為の課題曲、これもまたリーダー種哉の提案で決まった。いや、この場合は、リードヴォーカルを務める種哉の提案という方がいいだろう。
アカペラには、メインヴォーカルであるリードが1人、一番低いパートのベースが1人、ボイパが1人、残るはコーラスというのが基本的な構成だ。リード担当の種哉が自ら選んだ曲が最も種哉の声を活かせる曲であり、良いと判断をしたのである。
しかし、その曲は安室奈美恵の『SayTheWord』。女性・・・の曲だ。男性が、女性の曲を歌う。しかも原キーで歌うと言うのだ・・・。俺も高校時代ヴォーカルをやっていたけど、とても声が出ない。これを歌いたいと自信満々に言う奴が、信じられなかった。そう、彼の声を聞くまでは。

この日、俺は初めて種哉の声を聞いた。正直、驚きの一言だった。
「こんな高い声が出るなんて。」
課題曲の『SayTheWord』。女性の曲であるこの歌を、声をかすれさせる事なく、そして何といっても裏声を使う事なく、彼は歌いきった。
ハイトーンを越えていると思った。男の声を越えた声だと思った。
これに陽介の絶対的ハモリセンスによるコーラス、それから熊毛の美声によるコーラス、そしてウッズのベースが加われば・・・。

陽介のメールからずっと持っていた俺の心の喜びは、『ハモリ倶楽部』出場への希望へと変わっていった。

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